プロダクトつまり工業製品は、その設計者に似るといわれます。新幹線だけでなく、有名な蒸気機関車「デゴイチ」ことD51も島技師長の作品です。そのデザインには、合理的で控えめかつシンプルな美しさのなかに格調の高さを感じます。
1.直角水平主義
島家では、朝食は毎日午前6時定時に始まりました。そして、ナイフやフォークなどの食器類、バター、パンなどの食べ物はすべてテーブルに対して直角・水平に配置しなければならないという掟がありました。少しでもズレていると、きちんと直してからでないと食事しない。そして、チーズは、毎回きちんと25x25x4mmに切り分けられました。
2.美学
島秀雄がはじめて蒸気機関車の設計に携わったのは、昭和3(1928)年。それが、C53です。日本初にして最後の3シリンダー機関車でした。島がその当時その設計について語っていた美学があります。
「合理的なメカニズムは、美しくなければならない。美しい機械は、性能も素晴らしい。」
「3シリンダーの奏でるドラフト音は、ワルツのように軽やかでなければならない。」
ちなみに、車内放送で「…次は、終点の東京です…。」といったアナウンスに簡単なメロディーを付けようというアイデアを最初に出したのは、島でした。
3.指針
昭和23(1948)年3月、島は工作局長に就任しました。就任直後、客貨車課課長補佐であった星 晃は局長室に呼ばれ、こう告げられました。
「いままで客車や貨車について注文を出すことは遠慮していました。しかし、これからはどしどし出しますよ」 そして、「まず、便所をきれいにしてください。」
星たちは設計を進め、試行錯誤の末に埋め込み・踏段式の便器を考えだします。省スペースでメンテナンスしやすい。これは「S式便器」と呼ばれるようになり、鉄道車両だけでなく、家庭や店舗などでも広く普及しました。
島技師長は設計チームに対して常々、
「細かいところにこそ気を遣いなさい」
「単なる思いつきで設計してはいけない」
ということを設計指針として強調していました。また、
「変な格好のものを作っちゃダメですよ」
とも指示していました。
例えば、窓の形にも島の思想が表れています。従来の車両の窓はきっちりとした長方形で四隅が直角でしたが、これでは機械で洗車するようになるとコーナーに拭き残しができてしまいます。だから、四隅の角を丸くしたほうが掃除しやすいというわけです。それで、ブルートレイン20系客車の窓も含めて昭和30年代から登場する国鉄車両は窓の四隅が丸くなったのです。
「新幹線を作った男 伝説のエンジニア・島秀雄物語」 髙橋団吉著 PHP文庫
「新幹線を作った男 島秀雄物語」 髙橋団吉著 小学館
「星晃が手がけた国鉄黄金時代の車両たち」 福原俊一著 交通新聞社
「星さんの鉄道昔ばなし」 星 晃、米山淳一著 JTB
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