国鉄の歴史(19):粗にして野だが卑ではない

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「粗にして野だが卑ではない」

石田総裁が就任時に国会で語った言葉です。これは、自分は粗野な性格ではあるものの卑しい性格はしていない、ということを意味していました。

19-1.新幹線の安全性への疑念

君は道楽息子(新幹線)を残して去って行くが、今後どんなに悩まされることか。

石田総裁は十河前総裁のことを高く評価していましたが、引き継ぎの場で新幹線の安全性に疑問を抱き、苦笑しながらこう言いました。

開業前に皇族の秩父宮様が新幹線に試乗なさる際にも、「僕は新幹線なんて嫌いなんだよ。だいたい、試運転だというのに、高貴な方をお乗せするのは危険じゃないか。」と言って島前技師長を憤然とさせる一幕もありました。

19-2.新幹線の成功

石田総裁の考えとは裏腹に、開業後の東海道新幹線は安全を保たれ、国鉄屈指の黒字路線となって行きます。

営業日数約1,000日で乗客1億人、3,000日で5億人を達成。平成11(1999)年までには、東北、上越、長野新幹線も合わせて延べ56億人もの利用者を記録しました。日本の高度経済成長は、新幹線と切り離して語ることはできません。そして、経済だけでなくその後の日本人のライフスタイルさえ変えてしまったと言っても過言ではないでしょう。

19-3.二万キロ線路づたいに春の雷

雨の日も風の日も国鉄を守る四十五万の従業員を、全国くまなくまわってねぎらいたい。

そう言って、十河信二は総裁退任後、45万人の国鉄職員にお礼行脚するために日本全国を巡り、職員たちに

諸君が中心になって、これからも国鉄を支えてください。

と激励しました。前総裁を乗せた急行列車はそれぞれの通過駅を最徐行し、駅職員や家族が総出で
「がんばれ!」
「日本一!」
と叫びながら手を振り続けました。

すべての停車駅で大歓迎を受け、階段の上り下りは大変だからと下り列車を急遽上りのホームに入れるという鉄道の現場では基本絶対にやらないことまでした駅もありました。

人事が刷新した本社の幹部ににらまれることを承知の上で前総裁のために大宴会を催し、左遷された現場長もいました。

 

国鉄の歴史(20):巨額債務のはじまり

 

アイキャッチ画像:「「粗にして野だが卑ではない」石田禮介の生涯」 城山三郎著 文春文庫 表紙より

「十河信二」 十河信二傅刊行会

「新幹線を作った男 伝説のエンジニア・島秀雄物語」 髙橋団吉著 PHP文庫

「新幹線を作った男 島秀雄物語」 髙橋団吉著 小学館

「国鉄の基礎知識 敗戦から解体まで[昭和20年-昭和62年]」 所澤秀樹著 創元社

「夢の超特急ひかり号が走った 十河信二伝」 つだゆみ著 西日本出版社

「「夢の超特急」、走る!新幹線を作った男たち」 碇義朗著 文春文庫

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